ぜんまい仕掛け

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2014年 01月 14日

乙女の座席


札幌方面へ向かう特急列車に乗り込むと、その日も自由席は八割がたあるいはそれ以上、既に埋まっていた。

私が乗った車両も、通路側の座席がわずかに空いているだけだったので、速やかに人の姿のない座席に向かう。
窓側の席の女性に「隣が空いているかどうか」を確認し、腰を下ろした。
斜め前の通路側の席も空いていたが、自分と同じ駅から乗ったのであろう二十歳前くらいのスレンダーな女性が反対方向の入り口から歩いてきて座った。

足がキレイだな、と、思わず女性の足首あたりに目がいったのは、この厳寒の時期にあって女性がタイツではないヌードベージュカラーの普通のストッキングをはいていたからだった。靴も、ブーツではなく三センチヒールくらいの黒のパンプス。コートはトレンチタイプ、靴とコーディネートされたかのような黒いバッグ...それらから想像するに、このベージュのコートの下はおそらくスーツなのではないか。リクルートスタイルのような正統派の。

前の座席の背もたれ後ろ側のテーブルをぱたりと倒し、若い女性はテーブルの上にミネラルウォーターのボトルを置き、ペットボトルと一緒に買い求めたのであろう鮭フレークの入ったおにぎりを豪快に食べ始めた。
朝食抜きで、大急ぎで列車に乗り込んできたのかな...その食べっぷりが微笑ましいな、と私は目の端っこの方でチラ見していた。
おにぎりを食べ終えた女性、さてこれからスマホの画面でも見るのかなと思いきや。
ノートパソコンがすっぽりと入るほどのバッグの中からたたみ式の、スマホサイズの二倍以上はありそうなミラーを取りだして、座席のテーブルに三角形にセットした。
「も、も、もしかして...」
...私の予感は的中した。女性は続けて、化粧ポーチ、何かのクリームの容器、ビューラー、などなどを慣れた手つきでさささっと取りだす。

列車の座席で化粧をしてはいけない、なんて決まりは何処にもない。
私も化粧崩れをチェックするためにコンパクトを出したりすることは少なくない。
...しかし、すっぴんから始めるフルメークを、列車の中で繰り広げたことはいまだ一度も経験はない(というより、自分の場合はそもそもすっぴんで外出できる顔じゃない、というのが正しいのだが)。
若き女性の「変身作業」は、まずビューラーで丁寧にまつ毛をカールするところから始まった。
女性の隣(窓側の席)の男性は、果たしてどうしているのだろう、見てみぬふりをするしかないのだろうけれど、決して居心地がよい場面ではないだろうなぁ...背もたれのあちら側の男性の表情は確認することができないが、ちょっとだけ同情してしまった。
女性の座席は、イコール、彼女の「マイルーム」と化してしまっているかのようだった。
丁寧に、塗って、塗って、塗って、パーツがどんどん「カンペキに」仕上がっていく。
たまに、おもむろにミネラルウォーターを口に含む。
そして再び、変身作業続行へ。
それにしても、ランダムに揺れる列車内でマスカラやアイライナーをどうやったらはみ出さずに塗れるんだろう。
それよりなにより、あの姿勢で車酔い状態にならないんだろうか。
化粧が始まって約30分経過、その間にも、しばしスマホの画面を見入っていたり、打ち込んでいたり。そして「変身の仕上げ」にはリップグロスか何か、を、唇に塗っていた。

さて、若き女性の「朝の変身コース」がそれで終わるかと思いきや。
「顔」が終わると今度は「髪」が始まった。ロングヘアーの髪は、そのままに、ではなかったのだ。入念にブラシを入れる。毛先の“だまだま”を苦労しながら解きほぐす。抜けた毛を通路の床に落とすのは見ていて気持ちがいいものではない、な。空調の流れ次第では私の足元にやって来そうだし。

車内に札幌到着がまもなくであることを告げるアナウンスが流れる。
女性はまだ、髪のアップの仕上げの最中だ。
結局、全てが終わってあれやこれやの「変身グッズ」が彼女のバッグに戻ったのは列車が札幌駅構内に差し掛かる直前だった。


...あっぱれだな。
自分には到底真似のできない行動だ。
彼女はあのカンペキスタイルでこれからどこへ向かうのだろう。
面接だろうか。
自分がもし面接官だったら、あの子は採用したくないな。

しかしもしも座席に空きがなかった場合、彼女はどうするつもりだったのだろう?おにぎりは?化粧は???
う~~ん、そういう要らぬ心配はしない性格なのだろうな。
でも以前、すっぴんのうら若き乙女が列車内のトイレに30分以上立てこもり、見事なフルメイクで出てきたことがあった...トイレの前にものすごいトイレ待ちの行列ができていたのに、彼女はいたって涼しい顔で座席に戻っていったのだったっけ。
もしかすると、この女性もそういう選択を平気でする子かもしれないな...あの時のトイレ待ち行列のヒトビトの爆発寸前(身も心も)の表情を同時に思い出していた。

だが待てよ、そういう性格のほうが、もしかすると人目気にせぬ集中力や図太さはあるのかもしれないな。
だったら、面接官の立場の場合、こういう若手を採用した方がある意味戦力にはなるんだろうか。
...う~~ん、悩みどころだ。

そもそも、列車内での化粧って迷惑行為ではないわけで...
マニキュアのような、明らかに強烈なニオイが発生するものなどは迷惑に該当するけれど、化粧しているその姿を、不快ならば見なければいいということになるものなぁ。
でも「あけっぴろげにもほどがある」というか、公衆の面前でのモラル、とか、そういう部分においてはイエローカードなんじゃないだろうか...
などなどなど、しょうもないことをあれこれと考えた日だった。

ブログネタにしようかとも思ったが、同じマチから乗った女性、もしかしたら自分の知り合いの知り合いとか、そういうこともなきにしもあらずだものな...
そう思い直して、この件は忘れることにした。


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...ところが、その二日後。
実家へ向かうべく再び特急列車を利用した際、私の後に続いて乗り込んできた女性が、まさに二日前の斜め前の席の、変身女性だったのだ。

この日は大雪で、自分が乗る予定の列車が1時間以上遅れて我がマチの駅にやっとこさ着いたもので、車内は混みこみだった。勿論、空いている座席なんてあるわけもなく。
客室内の通路に立っていれば寒くはないのだが、通路も身動きが取れないくらいの混雑状態だと仮にトイレに行かなくてはならない状況が発生した場合にとても大変。なので、寒いことを承知の上でデッキのトイレ前あたりに立ち位置を確保した。
私の後ろから乗ってきた、あの日と同じイデタチの女性は、手にやはりペットボトルを持って空席を探していた。が、空席がないことを確認すると、なななんと迷いなく私の目の前の「洗面所」の扉を開けたのだった。

トイレと洗面所が別だというのがまだ救い、しかしこれがトイレを占拠してのフルメイクスタートされた日にゃ、大迷惑このうえない。
この日初めて知ったのだが、イマドキの特急列車、洗面所の扉にも内側からカギをかけられるようになっているのですね。さて、私の目の前で「使用中」の赤文字が延々延々、消えることがない。今頃この扉のアチラ側で、彼女の変身はどのステージあたりなんだろう。もしかしたら鮭フレークのおにぎりもこの中で食べているんだろうか。


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トイレほどじゃないが、洗面所を使いたくてやってくるお客さんもいるわけで。
皆さん、しばらくは扉の前で立っているのだけれど、待てど暮らせど占拠者が扉を開けてくれないのでしびれを切らして他の車両へと移っていくのでありました。

結局、女性は(案の定)30分以上洗面所を占拠し、やはり二日前と同じようにヘアスタイルもきっちりとパーフェクトに「変身した姿」で何事もなかったように洗面所を出て、その後、他の車両へと消えて行った。



...私がもしも面接官だったら、やっぱりこの女性を採用したくはないな。

ごめんね乙女ちゃん、それがオバサンのストレートな結論だよ。

by Okamekikurin | 2014-01-14 23:23 | ツブヤキ | Comments(8)
Commented by インコ母 at 2014-01-14 23:38 x
「乗り物の中でお化粧」って、手元がブレないのかな?

お化粧に30分も時間を掛けたことが無い私には解らないわ~、

私もこんな女性なら採用したくない。でも、これが彼女の「技」なのかも。

「30分早起きしてお家でメイクして!」よーー! 婆さんでも見たくないわ、そんな光景は。。
Commented by hokulele2 at 2014-01-15 00:42
列車通勤していると、フルメイクにとりかかる女の子はたまに見かけるので驚きません。
が、私も何度か遭遇したけど、髪まで行くと、さすがに注意したくなります・・・(-"-)
普段5分でメイクを済ませる私ですので、30分かける点は見習おうかなー
あ、口紅塗り忘れたまま地下鉄乗ること、よくあります(p_-)
Commented by Okamekikurin at 2014-01-15 06:53

★インコ母さん★
早朝の列車ならば「まぁ、仕方ないかナ」と思えるのですが...そういう時間帯でもないので、さすがにちょっと唖然としちゃいました(^_^;)
ニッポン人的慎ましさ、恥じらい感、それやこれやはもはや死語であり温度差や感覚が著しく変化しているのだろうなぁと思ったりも。
しかし化粧云々よりも、みなが使う場所を平気で長々と独占使用する感覚が、個人的にはペケかなぁ、と感じた次第です...。

Commented by Okamekikurin at 2014-01-15 06:54

★hokulele2さん★
以前、自分と並行して走っていた車が信号待ちで停まるたびにルームミラーに映しながら化粧している女性に出くわしましたが、たぶん彼女の中では「どの信号までには眉毛、あの信号までにはアイライナー」とかシナリオが出来ているンじゃないかと(笑)
気になって自分がわき見運転状態でしたよ(^_^;)

私も色んなパーツを書き忘れて出先のトイレの鏡とかで凍りつくことがしばしば(>_<)
眉毛が片方なかったり、アイシャドーが片目だけだったり、いやもうホラー映画状態ですワ。
めぐんこさんは素材がそもそもめんこいのでスッピンオッケ~だもの~~(羨)
Commented by R子 at 2014-01-15 07:38 x
おはようございます。Kikuさま

地下鉄座席で、鏡片手にフルメイクの方にアッパレ♪
揺れる路線でのアイライン&マスカラは、思わず見入ってしまいます。
そこまで器用なのって、ウラヤマシイわ('_')
オウチ(室内)では、メイクしないのかしら?
Commented by Okamekikurin at 2014-01-15 22:03

★R子さん★
おばんでございます、R子さまっ♪
公共メイク女子、まさか「メイクしてるとこを見られてコーフンするンです、ア・タ・シ♪」...なんてーことはないですよね(笑笑)...あ、次の小説にいかがでしょう。「いけないルージュマジック~~♪」って歌がその昔ありましたけど、「イッちゃうルージュマジック」で是非に(笑)

実は今日も札幌だったのですが、またまたまた変身女子が同じ列車に乗っていたようで(もしかしたら毎日乗っているんだろうか?)、今度は地下鉄の札幌駅乗車口で一緒になってしまいました~(>_<)
偶然というよりも、こりゃー何か引き寄せられてるンじゃないかと思えてきちゃいましたよ~。

Commented by R子 at 2014-01-16 08:29 x
Kikurinさま

イッちゃう…メモりました(爆)
もうこれは、「劇顔ビフォア―アフター」で撮影するしかないと"(-""-)"
前世からのご縁?

むかーし、
「優花」似の女子が、職場に寝坊ノーメイクで来て、
本当に…誰かわからなくてショッキングゥでした。
Commented by Okamekikurin at 2014-01-16 22:07

★R子さん★
もしかすると、この時間の列車に乗った時には無意識に「彼女」を探すようになってしまうような気が(笑)
ちなみに明日も同時刻の列車の予定でしたが、別件が加わり急きょクルマ移動になりました。

ビフォーアフタ~、やってみたいです(^_^;)
音消し撮影必須ですかね。
それにしてもイマドキの若き女性はメイクが本当に上手ですね。感心しちゃいますワ。



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