2014年 07月 07日

紫陽花


食卓の、向かい合った椅子に腰かけた父が
「お母さんと、二人で今日は ものすごく楽しかったでしょう?」と
ニコニコ笑いながら、私に言う。

数時間前、実家を出る時に私が玄関に置いてきた紙が
病院から戻ってみると居間の壁に画びょうで留められていた。
母が家に居ないことに気付いた父が、
母を探して家から出てしまわないようにと
「病院へ行っている」ことと
「娘(私)が付き添っているので心配はない」ということ
そして「留守番をお願いします」と
極力簡潔に、フォントサイズ48ポイントで印刷してきた紙。
父はその紙を、自分で壁に貼り付けたことすら
とっくに忘れているだろう。


「病院へ行ってきたのだってば、お母さんと」
「ミカ、具合悪いの? どこが??」
「違うよ、具合悪いのは、お母さんだってばぁ」
「え?お母さん、具合悪いの?」

そんな頓珍漢な会話を、顔を見るたびずっと繰り返している。
いつものこととはいえ、父への相槌や説明も10回も越えると
ぞんざいになってしまうのだった。





「車いすって、やっぱりラクちんなものだね。」
母が少し嬉しそうに、そう言う。
この位置から母を、「見おろす」というその角度は切ない。
検査室までの長い廊下を、車いすを押しながら
(車いすの通行って、右側なのかな左側なのかな)と
そんなことを ふと思う。

「病院にもコンビニや珈琲屋さんが入っているんだねぇ」と
他愛のないことも、努めて話す。


二日前、受話器の向こうから聞こえてきた母の声は
とことん沈み切っていた。
「この先、どうなるんだろうと つい考えちゃってさぁ」
「考えて何か結論でることなら考えてもいいけど、
そうじゃないんならば都度都度考えるほうがいいんじゃないのぉ?」と
わざとに緩めにそう言った自分が
実は延々と、この先の不安、を、思い続けているのだった。


老いというものは
どうしてこんなにも容赦ないのだろう
「死ぬまで、なんてったって生きてかないとならんもねー」と
ニホンゴ的にアヤシイ言葉を母と交わしながら
こういうときって、笑うしかないもんなのかな、と
泣きそうなのに笑いながら、
自分はいつまで踏ん張れるのかなぁとつい凹みそうになる。

受け止めること、受け入れること、
慣れること、諦めること、
感じなくなること、
感謝すること

心には ざぶざぶと、色んな波が押し寄せる。



実家の庭にあじさいの花が、今年も
紫がかった深い青と やわらかなうす赤で
寄り添うようにそこに在った。

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by Okamekikurin | 2014-07-07 23:55 | ツブヤキ | Comments(6)
Commented by kei at 2014-07-08 09:31 x
親の問題は、、いろいろと大変ですよね。。

と言え、
私など自分もこれからどうするのかって年ですから
悩ましいです。

BARU両親がまだまだ元気で・・
ホームに入居しているとはいえ
先に片付いてくれないと何も決められません。
我々の方が先に逝きそうだ。。^^;

入居しているホームがけっこうお高くて
これからまだ20年以上も生きそうだし
お金の問題も出てきますから・・・ほんと悩ましいです。。
Commented by 乱子 at 2014-07-08 09:38 x
その「ざぶざぶ」にスワン型浮き輪をこっそり浮かべておきます
Commented by Okamekikurin at 2014-07-08 22:10
★keiさん★
心身共に健康で最期まで、というのはなかなか難しいことですよね...
わが家は子供がいませんので、ホント自分達の老後を思うと「ずどーーーん」と暗くなります(/_;)
あと、びび太より先に人間がダウンしちゃったら、ってことも心配...。

夕方の地震、札幌は結構揺れたようですね...keiさんのブログにも書かせていただきましたが、皆さまお怪我などありませんでしたか?
沖縄の方は台風が、北海道では地震が、何だか日本列島がエライこっちゃになってますね。
余震が来ないようにと、祈りながら過ごす数日になりそうです。

Commented by Okamekikurin at 2014-07-08 22:11
★乱子ちゃん★
有難うね~~、乱子ちゃんっ。
沈みそうになったらスワンにつかまってプカプカ漂ってみます♪

地震の揺れで、ひのちゃん&よもちゃん達、パニックを起こしていなかったでしょうか。
実家で震度3だったと言っていたので、乱子ちゃんのおうち方面も同じくらいの震度だったのかな...。

PS:先日の富良野、お逢いできて嬉しかったよーっ(^^♪

Commented at 2014-07-09 08:52 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Okamekikurin at 2014-07-10 05:59
★鍵コメさま★
お久しぶりですっっっ!!!!!
コメントを、本当に有難うございます~~~(^^)/

壮絶な日々だったことでしょう...心身ともにどれだけエネルギーを使われたのかと思うと、涙が溢れます。
乗り越えられない試練はない、という言葉も聞くけれど、私は「ほんまかいな」と心の中で呟くことが何度もあります(苦笑)
でも逆に、案外図太いものだな人間は、と思うこともあったり。
日ごろ心がけているのは「少し手綱をゆるませる」...ギリギリいっぱいだといざというときに使う部分がなくなってしまうから(笑)

またいつか、他愛のない話を、お茶を飲みながらさせてくださいませネ。



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