2016年 07月 20日

庭の紫陽花


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開け放ったままの玄関、その、奥から
居間で話す父の声が聞こえてくる

「今、どちらに住んでいるの?」


続けて、夫がそれに答える声
「室蘭、です。」


「えっ?室蘭に住んでいるの?
僕も昔、室蘭に住んでいたんですよ。
母恋南町××番地でしたよ。いやぁ、懐かしいなぁ。
トッカリショ、行ったことある?」


「あります、トッカリショ。お父さんも昔、行っていたんですか?」


「毎日、泳ぎに行っていましたよ。
僕は室蘭中学で、56人中の54番目でね。
勉強が、なにせ嫌いでねぇ...」



そして、僅かにひと呼吸ほど置くと

父の話は振り出しに戻るのだった



「今、どちらに住んでいるの?」
「室蘭、です!」
「えっ!?室蘭に住んでいるの??...」


録音テープのリピート再生の如く
見事に同じ話が繰り返される


父の会話には、もうほんの少しのパターンしかない


5回も繰り返されると、夫はいつのまにか舟を漕ぎ始める
催眠術のように、振り子のように、規則正しい小さなパーツの会話




庭の紫陽花を撮りながら、父と夫の声を聞く

紫陽花もきっと、父のあの話を何百回、あるいはもっと
聞いているだろうか



おじいちゃんを見送り

おばあちゃんを見送り

幾年月

遠い時代も 今も 変わることなく紫陽花は


そうして今年の夏も 藍のインク色に染まりゆく







by Okamekikurin | 2016-07-20 23:53 | ツブヤキ | Comments(2)
Commented by ベチ at 2016-07-21 20:22 x
遥かなる地を想い起こさせるご主人の言葉が素敵です。
こころ優しきご主人と庭の紫陽花ですね。
その会話を聞いているkikurinさん・・・しあわせですね♪
Commented by Okamekikurin at 2016-07-21 22:06
★ベチさん★
有難うございます、ベチさん。m(__)m
幸せというものは、本当にこういうごく些細な瞬間なのかもしれませんね。
両親ともに、どんどん体のあちこちが弱くなっています。
自分も、毎朝起きるたびに顔の皺が増えているような気がしますし(>_<)

限りある、この世での時間。
増えることはないのだなぁと思うと、ちょいと焦りを覚えます。
夏の花火やら盆踊り、そういう行事のシーズンになると特に、何だか切なくなるのです。




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