2011年 10月 13日
待ち合わせの日時を決めてから当日を迎えるまで、自分の頭の中で幾通りにも思い描き想像しつづけていたその容姿よりもずっと「老けて見える」彼が、向かいの椅子に腰をおろした。 「ここって煙草、喫えないんだね?」 それが彼の第一声。 「久しぶり」とか「元気だった?」とか、そういう類いの言葉では、なくて。 まるでそれは、昨日おとといも、ずっと一緒に過ごしていたかのような。 そんな自然さというか、日常的テンションの響きだったのだ。 それがあまりに彼らしくもあり、その瞬間に私は、いつのまにか構えていたらしい自分の不要な肩の力がするんと抜けていくのを感じた。 「老けたね」なんて、とてもそんな言葉を口にはできなかった。 彼だって同様に私を見て感じただろうし、リストラ以降の彼の苦労がそのやつれた容姿から痛いほどに伝わってくるようで、真正面から彼を見つめることができなかった。 「なんか食べていく?」 「うん、なんかあるの?ここ」 「前に友達が食べてたスパゲッティ、そういえば結構ボリュームあったよ」 「ふ~ん、ミカはなんか食べるの?」 離婚していなければ、彼と私は、やっぱりこんな会話を繰り返していたのだろうな。 彼との会話のリズムは、そうだった、とてもスローモーだったのだ。久しぶりだなぁ、このテンポ。 そう感じた瞬間に、目頭がカッと熱くなり、私はあわてて話題を探す。 にわかネタを取り出すまでもなく、彼がゆっくりとカフェ全体を見回しながら「イノダっていうのは、どっから来た店なの?ここに紀伊国屋があることも俺、知らなかったよ」と私に尋ねる。 5年以上は逢っていなかったであろう彼にイノダ珈琲の説明をしている自分が、何となく滑稽でもあり、いや、こんなもんかな、と不思議な安堵感を覚えてもいた。 「お盆は帰ってたの?」 「いや、今年は帰らなかった」 「去年の秋に、立坑の写真撮ってきたよ」 「ミカが?」 「うん。そう」 「なんでまた」 離婚した20年前にはまるで興味を示さなかった分野の話が、私の口から飛び出すことに意外そうな表情を見せる彼。 確かに、あれから月日は流れていたのだよなぁ。 変わりゆくもの、 しかし 決して変わらぬもの、 どちらもそこにはあるのだろう。 イノダの、柔らかい物腰で接客をするスタッフさんが注文を取りに近づいてきた。 この女性の目に、彼と私はどんな関係に映るのだろう。 ふと、そんなことを考えていた。
by Okamekikurin
| 2011-10-13 10:55
| ツブヤキ
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Comments(16)
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kozu
at 2011-10-13 13:03
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月日は誰にでも確実に流れますよね。
それが一人一人どう感じるかにもよりますが… 変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。 今辛いことは、何ヶ月後、何年後には笑って話せるのでしょうか? 今は逃げ出したいことが多くて少しイヤになっているけど、踏ん張れば後で良い経験になったって思えるのかな 紅葉が綺麗ですね
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おさむ
at 2011-10-13 16:16
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昨日までのケロ子&トンボの家政婦シリーズから一転…。
うーむ、コメよりメッセの方が良さそうですね。 テレサ・テンの歌ではないけれど、時の流れに身をまかせましょう! 紅葉すごく綺麗ですね!もうこんなに色づいてるなんてちょっと信じられないです。
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saba
at 2011-10-13 17:30
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写真と文章があっていて、軽い小説でも読んでいるような錯覚になりました。
理由があって別れることがあっても、何かのきっかけで普通に会えることがあるなら、それはそれで貴重な人間関係だなあ‥と、思います。 最後のハイキー気味の紅葉がきれい〜。鮮やかですね。昨日見た公園の立坑みたいです。
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at 2011-10-13 18:18
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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GIF
at 2011-10-13 22:17
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Okamekikurin at 2011-10-13 23:50
★kozuさん★ 【まもなく49歳現在】の自分が思うのは、多くの諸々は「時」が解決してくれるのだなぁ...ということかなぁ。 私の中に大小差はあれど抱いていた「恨み」カテゴリに属する感情なども、その殆どは「時」を経てしまうとほぼ笑い話でした。 「時」には随分と助けられました。 今も実はかなりやばい位置にいるなぁと長年の勘で受け止めてます。全身、ストレス性の蕁麻疹になってるし(笑) でも、この状況が一生続くわけではないのだ、と繰り返し自分に言い聞かせてます。 ...というか、それ以外どうしようもない、というのが正解かな(苦笑) いつも周りの方達の受け皿になっていらっしゃるようにお見受けしますkozuさん...ご自分をさらけ出せる場所(お相手)確保してくださいませネ。 ときにブチ切れることも、これまた大切なのかもです。
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Okamekikurin at 2011-10-13 23:50
★おさむさん★ おさむさんが北海道にいらしていたあの日以来、雪は見ておりません(笑) でも紅葉はずいぶん麓に降りてきましたねぇ。町内の木々も、とても鮮やかに色づいております。不思議と、雪虫がまだ飛んでいません。あれ?そういえば、雪虫ってご存知でしたっけ? お心遣い有難うございます。大抵は、川やら沼やらを漂っている感覚です、自分。 冬から春、そして秋から冬へとシフトするこの季節の変わり目がとにかくバランスが崩れるんですよねぇ。 あ、元気は元気なのですけれど、ネ。 美味しいお酒など飲みながら、楽しい会話がはずむひとときを過ごしたならば、きっと元気も取り戻せてしまうのだろうなぁ。
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Okamekikurin at 2011-10-13 23:51
★sabaさん★ 言い切れることは、やっぱ人生は一度きり...ってことなんでしょうかねぇ。 恨んだままで死にたくないし、人生のどこかで関わってきたお互いならば恨みあって終わりにはしたくない。感情があるのが人間だから、確かに恨む期間はあったとしても。いずれはそれを乗り越えたり風化させたりして、とにかく「生きていること、元気でいること」それが何よりと思うわけです。 とはいっても、日々は案外目先のちっぽけなことにとらわれてイライラしたり不安になったり、の繰り返しなんですけれどネ(笑) ま、「にんげんだもの~」ってことで(^_^.) メモリアル公園の鮮やかなオレンジは、やっぱ青空との相性が抜群ですよね。 私もまた撮りに行きたいですよー。
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Okamekikurin at 2011-10-13 23:52
★GIFさん★ んふふっ。 貴女様さえオッケ出してくれれば、いつでもブログをリンクしちゃうわよん(≧∇≦) お祭りの夜に、GIFさんと一緒に行った喫茶店で今日、M新聞見せてもらったらね、宮島沼のマガンと満月を見事に重ねた写真が載ってたワ。 昨日のあの雷雨の後で撮ったんだべかねぇ。たまげたぢょ。まさに、プロ根性だわね。 GIFさんのカメラのアートモードで、アルテの校舎で撮ってほすぃです...ヲイラのチャイナ(爆 夜の写真は、岩見沢のSAです。トイレタイムに立ち寄って、「おんやまぁ、月がええ感じでないかい」と撮ったものですワ。雨の後で、空気のしっとり感がよかったですよぉ。
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Okamekikurin at 2011-10-13 23:53
★鍵コメさま(^^)★ なるほどぉぉぉー。 色々エロエロ、そちら業界の事情っていうものがあるのですねぇ... 勉強になりましたっ。 タイトルって、ナニゲに重要な位置にいますよねぇ。 こんなちっぽけな、拙ブログ記事のタイトルでさえ、悩むことたまにありますよぉ。 それにしても鍵コメさん、ご多忙でいらっしゃるのですねぇ。 去年のあの不思議な会合?でお逢いしてからもう1年ですものね。早いですわぁ。 また機会があったらご一緒したいですっっっ!
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カッコとじ
at 2011-10-14 00:18
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あの頃のあの人に会いたい って思って行くんだけど、 あの頃のあの人じゃない。 仕草も声も喋り方も変わってない。 自信満々に熱く語るとこも変わってない。 そこが好きだったハズ。 出来るひとにあこがれたハズ。 出世もしてた。オシャレもそのまんま。 名前の呼び方もそのまんま。 でも、違う。 ただの自慢話にしか聞こえない自分。 人の話を聞くってことできないの?と心の中でいらだつ自分。 時の流れで自分が変わっていた。 共通の話題・・・。それはあの頃の思い出しかない。 あの駅で降りたのは、現実逃避だったのだと思う。まさに二人でいても一人だと感じてた時。 でも帰ってきてもため息しかでない。なにしにいったんだろー。あの頃とは違うと思いながらも、想い出かき集めてまたあの駅で降りてた。 月日がたっても苦い話ってあるもんだよ。 赤く萌えるこのモミジの写真が、気になってる私です。
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at 2011-10-14 14:35
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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Okamekikurin at 2011-10-14 14:36
★カッコとじさん★ あー。なまら、心臓部分ついてるデス。 「人の話を聞くってことできないの?」 ↑↑↑↑これです、これ。 私は、ココが致命的に欠けているお方には魅力を全く感じませんのです...(^_^;) 自信家さん、トップに立たれるお方にはそういうものがどうしても必要なのですよねぇ。 けど、それであっても、やはり人の話を聞ける引出しは持っていていただきたいですわン。 会話のキャッチボールができないお人、案外少なくないなぁと社会の隅っこで毬つきしながら思う事しばしば。 まぁ単に私が口下手だから、上手に喋れるお人を羨んでいるのかもですけど、ネ(笑) だんだん曇り空になってきちゃいました、今日は。 ご近所の紅葉が、いよいよ鮮やかで。 枯れる前の、なけなしのチカラを振り絞って、血のような赤。 女にも、そういう勝負の時ってあるのかなぁ。 .....なんちって(^o^)
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Okamekikurin at 2011-10-14 14:45
★鍵コメさま(^^)★ あの日は鍵コメさまとツーショットを撮ってもらったのですよねぇ。 またどこかで、チョーお妖しげにペア写真を撮ってもらいたいです。 イノダさんは健康的な昼の光が射しこむカフェだから、淫靡な写真はもうちっとダァクな照明のお店で(笑) 白昼堂々、原語乱発の人妻赤裸々アンケート。 いたしとぉございまつ(*´ェ`*)
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at 2011-10-17 10:34
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Okamekikurin at 2011-10-17 18:15
★鍵コメさま(^^)★ おかげさまで今年も出稼ぎシーズンがやってまいりました。 ホントは8月から始まる予定だったのですが、いろいろございましてこんな時期になってしまいました~。 ダァクなお店... いや、決してアヤシイクスリやってるとか、そっちのダァクではないですヨ。 単に、照明を暗めにしている...ジャズ系の音楽が流れるお店とか、いいなぁ。 目、肩、偏頭痛...なんにせよ、連動していますからねぇ。 鍵コメさまも、どうぞくれぐれもお大事になさってくださいませ~。 |
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