2013年 03月 08日
「エンディングノートって、何処に売っているのかなぁ? 本屋さんだろうか? 見かけた時でいいから、買っておいてくれるかい?」 先月のこと。 母と電話で喋っている時に、そんなことを頼まれた。 こういう話をあらたまってされるよりも、いつも通りに他愛のない話をしているその緩いテンションのままで言ってもらえることに、そっと感謝した。 楽しいことではないけれど、しかし避けられないことだし。死、というものは。 「夕張の映画祭から帰ってきたら、どこかで買っておくよ。来月にお姉ちゃんが千葉から帰省した時にでもまた逢えたら、渡すからさ。」 正直、多少の動揺はあったけれど、努めてさっきまでの会話のトーンと変わらぬように返事をした。 「うん、頼むね。」 母も明るい口調でそう言ってくれた。 そして、その日の会話は終わった。 エンディングノート、かぁ... 受話器を置いて、パソコンでインターネットの画面を開き、検索してみた。 こういうものは出来ればネットじゃなくて、ちゃんと手に取って中を確かめて買いたいんだけどな...本当は。 と、思いつつ、 「随分と種類があるものなんだなぁ」と 初めて見る(パソコン上で、だけれど)その“ノート”の、中身のバラエティさやら価格のバラエティさ(?)に驚きながらもしばし熱中して画面にくぎ付けになっていた。 母は、どんなことを記したいのだろう。 色んなタイプのエンディングノートを画面で見比べながら、決めかねてしまった。 1冊には絞り込めそうになかったので結局3冊をピックアップした。 母の分、夫の分、私の分、とすればいいじゃないか。とりあえず母に3冊全部を見せて、一番気に入ったものを選んでもらえばいいのだ。残った2冊を、夫と私が使うことにしよう。平均寿命から考えれば夫と私がこの世にサヨナラするまでにはまだ少しあるかもしれないけれど、あくまで今の時点の思い、その他を書いておいて将来的に変わるものがあればあったでそれはそれ。 そうして映画祭から戻った翌日に、私は3冊のエンディングノートをオンライン購入した。 さらにその翌日の夜のこと、だった。 風呂上がりの夫が上半身裸のままでパソコン部屋にやってきた。 「ここに、へんなかたまりがあるんだけどさ~。」 夫は右の腋下を私に見せた。 見た瞬間に思った。 これって...悪性リンパ腫かもだな.... 腋下のしこりは直径5㎝ほどの大きさで、野球ボールのようにもり上がっていた。 夫のエンディングノートがもしや超特急エンディングノートになるんだろうか。 いや、ジョーク言ってる場合じゃないか。 とりあえず、受診だよなぁ。 夫にも「その場所さぁ、やばいかもよ。」と伝えて翌々日に勤務の時間休を取ってもらい、市内の病院へ。 「腫瘍、しかしながら良性悪性いずれかがわかるのは1週間後」と言われたと、夫が私に診断結果を告げる。 うん、まぁそうだとは思ったよ。 クロネコヤマトの宅急便とゆうメールで届いた3冊のエンディングノートをテーブルに並べてみる。 新しい書籍だけの持つ独特の香りが、かすかに鼻先をかすめる。 ヒンヤリとした厚い表紙、その中を見ることは、正直に言うと少し躊躇いがあった。 「元気に死にたいよなー」 と、エンディングノートの頁をめくりながら、そんな相矛盾しているような言葉が脳裏に浮かぶ。 そう、生きまくって元気に元気にチョー元気に、死んでやる。 母が綴ることばをふと、思い描いてみる。 咄嗟にぶわわわと涙があふれ出て、私は慌てて思考を中断した。 1週間、時間の流れがいつもどおり過ぎた。 夫の診断はどう出るのだろう。 考えないわけではなかったけれど、しかし淡々と過ごしていた。 案外、こんなものなのだよな。 だって、何にせよ、受け入れるしかできないのだもの。 再診予約時刻である12時半が過ぎて、約1時間後に。 居間でワイシャツにアイロンがけをしている最中に、ケータイが鳴った。 「....かくかくしかじか、で、これから職場に戻るから。」 夫の説明を、私はアイロン片手のままで聞いていた。 『悪性だったら、とりあえず帰宅。 そうでなければ、再び職場に戻って夜は残業。』 今朝の出勤時、玄関で夫と交わしていた短い会話を思い出す。 やれやれ、夫は今夜も残業かぁ.... メンドクサイから夕食は刺身だな~。 カフスの仕上げだけは少し丁寧にして、それからワイシャツをハンガーにかけ、アイロンのスイッチを切った。
by Okamekikurin
| 2013-03-08 23:55
| ツブヤキ
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Comments(14)
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月光
at 2013-03-09 11:29
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残業おめでとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
癌…ガンガン残業させてガッポリ稼いで下さい!!
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ポンママ
at 2013-03-09 11:42
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とりあえず悪性でなかったようでよかったです
大事なくて良かったね。
私の父が悪性リンパ腫で亡くなっているから、ドキッとしました。 先月kikurinちゃまの住む街のス○イルビルの本屋さんでエンディングノートを売っていたので、思わず自分用に買いそうになりました。 他に荷物があったので買うの諦めたけど、そうでなかったら買っていたと思う。 年齢に関係なく人間て、いつどうなるかわからないからマジで考えているよ。
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at 2013-03-09 15:48
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2013-03-09 17:41
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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カッコとじ
at 2013-03-10 00:47
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ごぶさたのブログコメントです。
そうそう、どんな結果であろと、受け入れることが大事。 どんな時も希望が大事。 エンディングノートも、希望を綴るツールのひとつかもしれない。 そう考えると、ワクワクして最期を迎えれるのかもね。 マディソン郡の橋のなんとか・・・って映画憶えてますか。 生涯のたった4日間で、一生分の恋をした母。 母が亡くなったあとから子供たち宛てに書いた手紙。 その時の気持ちを記したもの。女になってた母の赤裸々告白・・・・。 どーせならあんな夢のある?エンディングノートを残したいという私の希望です(笑)。 ご主人の件、よかったね。 その節はお騒がせしました。裏ネタあり。ここじゃかけまへんので、弥生のいつか会いたいわ(*^^)v。
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:17
★月光さん★ 月光さん、有難うございますっ。 亭主元気で残業がヨロシイようで(笑笑笑) 人生、明日には何があるかわかりません。 この暴風雪で、後ろから前から何が吹っ飛んでくるかもわかりません... マヂに...月光さんもお仕事中など、くれぐれもお気をつけてくださいねー。 昨日はアースさんにお邪魔しようと思っていたのですが、列車が止まりそうだったので断念しましたよぅ(T_T)
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:18
★ポンママさん★ ポンママさん、有難うございます~。 私は悪妻ですが(苦笑)、夫の持ちモノは悪性ではなかったようです(^_^;) 腋下のあの球体に人の顏を描いてみたいと思う私を、イッパツ殴ってくださいぃぃ。 (楳図かずおの漫画にそういうのあったっけ...)
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:20
★ゆんぐさん★ 連日の雪かきお疲れさまさまでございます~。 なんか週末ごとに吹雪いてる気がするのはアタシだけ???(-“-) 外出する予定がのきなみ中止だべさあああ(しくしく) そっか...ゆんぐちゃまのお父様もリンパだったのですね。 ダンナの母方がガン家系なもので、本人共々かなり覚悟していたんですよ...まぁ今回は一安心だったけれども、何せ身体はナマモノだものね。いつなんどき、何が起こるかわかりません。 ネガティブに生きるという意味じゃなくて、前向きにエンディングノートは必要かなと感じる今日この頃です~。
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:21
★鍵コメさま★ ご退院、おめでとうございます(^。^) 入院生活は、寒い冬の独居生活のかたにはむしろ有難い環境だったりすることもありますね(暖房・食事・その他)...私は売店通いが好きでした(笑) エンディングノートを手にしてみて、普段パソコン入力ばかりしている自分には妙に新鮮に感じられて(^_^;) もちろん検索した中にはPC用のエンディングノートもありましたが、これはやはり手書きに限るよなぁと、自分向けにもアナログノートを買いましたよ~。
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:22
★鍵コメさま★ ご丁寧なアドバイスを有難うございます。 夫は隣マチの病院の形成外科への紹介状と、CT結果の入ったCDを持参してきました。わがマチの市立病院では手術ができないのだそうです...(驚) 切除しなくても差し障りはないのでしょうが、小さいものではないので...といってもあとは本人の意思に任せるしかありません(^_^;) 私があれこれ言うと、ネ(^_^;)(^_^;)(^_^;) 何せ年度末・異動シーズンということで休みが取れるかどうかが...ヤレヤレですわ...。
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Okamekikurin at 2013-03-10 05:23
★カッコとじさん★ 母から電話で頼まれたときに、つい「家族のだれもが知らなかったような、衝撃告白を書いたりするのはやめといてよー」と笑いながら言ってしまいました。 ....そう、できれば本人亡き後に読んだ人たちが大爆笑するようなエンディングノートを書いてみたいものだわ。 エンディングノート大賞とかどっかのメーカーでやってくれないかしら。 受賞の賞金受取人は、エンディングノートに袋とじで記しておくとか、ね(笑) ...そっか、、、やはりあの話には裏ネタもありでしたか!!! それは近々、組みましょう。。。。『酒と泪とオトコと熟女』。。。そろそろ雪も解け始めてきそうだし(^_-)
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Okamekikurin at 2013-03-11 08:34
★とらさん★ 有難うございます~~~、とらさん(*^。^*) 悪性ではなかったけれど、結構大きい玉(笑)なもので、本人も切除する方向で考えているようです。 紹介状にCDメディア付き...って、時代は変わったものだなぁと変なところで感心していた私です(笑) エンディングノートというものの中身を初めて見ましたが、字が大きくてシンプルで、やはりそれはシニア世代の方々をターゲットにしているからなのかな、と。 使いやすくできているものですよ~。 字数も少なくて済みます(^^)v |
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